2025年6月12日時点でのメキシコ経済のファンダメンタルズ分析を以下に詳細にまとめます。本分析は、経済成長、インフレ、金融政策、為替市場、財政状況、政治的要因を包括的に評価し、最新のデータと見通しに基づいています。
目次
1. 経済成長の動向
BBVA Researchの報告によると、2025年のメキシコGDPは0.4%のマイナス成長が予想されています。これは、消費の弱含みと投資の回復遅延が主な要因です。実質賃金成長の減速が消費を圧迫し、公共支出の削減と不確実性の高まりが投資を抑制しています。
また、経済成長の低迷と投資不足により、正式な雇用創出は2025年末に0.1%減少する見込みです。BNP Paribasの分析では、GDP成長率は2025年に0.5%程度にとどまるとされ、2026年の潜在成長率(1.8%)に比べると依然として低いとされています。
項目
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2025年予測
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2026年予測
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GDP成長率
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-0.4%
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1.2%
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雇用創出(変化率)
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-0.1%
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–
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このマイナス成長は、メキシコ経済が短期的には厳しい状況にあることを示唆しており、2026年以降の回復に期待が集まっています。
2. インフレと価格動向
Citi Mexico Expectations Surveyによると、2025年末のインフレ率はヘッドライン・インフレ、コア・インフレともに3.90%と予想されています。これは、メキシコ中央銀行(Banxico)のインフレ目標(3%±1%)をやや上回る水準です。
サービス部門のインフレは緩和される見込みで、OECDの報告もインフレが徐々に低下すると予測しています。ただし、2024年5月のインフレ率(4.42%)が目標を上回った背景から、インフレ期待は依然として高いままです。
期間
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ヘッドラインインフレ
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コアインフレ
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2025年末
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3.90%
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3.90%
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2026年末
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3.75%
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3.70%
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Goldman Sachsの分析では、インフレが改善しない場合、Banxicoは8月の金融政策会合で利下げ幅を25ベーシスポイントに縮小する可能性があると指摘されています。
3. 金融政策の動向
Banxicoは金融緩和を継続しており、2024年5月の会合でベンチマーク金利を50ベーシスポイント引き下げ、8.5%に設定しました。これは2022年以来の低水準で、経済支援を試みる姿勢が明確です。
2025年6月時点では、インフレの緩和傾向を背景に追加の金利引き下げが予想されますが、米連邦準備制度(Fed)の政策とのバランスも重要です。Fedは金融政策を据え置いていますが、米国のインフレデータが柔らかくなったことで、メキシコペソへの資金流入が増加しています。
4. 為替市場とメキシコペソ
2025年6月11日、メキシコペソ(USD/MXN)は18.9127で取引され、2025年最安値を更新しました。これは、以下の要因によるものです:
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米国のインフレデータ: 米国のインフレデータが柔らかく、Fedの追加引き締め期待が後退。これにより、高利回り通貨であるペソへの資金流入が促進されました。
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利回り格差: メキシコの高い金利が投資家を引きつけ、低ボラティリティ環境での利回り追求を後押し。
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マクロ経済の改善: 最近の工業生産データが予想を上回り、メキシコの貿易ポジションに対する楽観的な見方が広がっています(Rio Times Online: Mexican Peso Strengthens Sharply as Dollar Retreats to New 2025 Low)。
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技術的要因: USD/MXNが19.00を下抜けし、50日、100日、200日の移動平均線がスポット価格を上回る状況が確認されています。RSI(相対力指数)は30.48(日足)、4時間足では30を下回り、MACDもネガティブで、ボリンジャーバンドの拡大によるボラティリティ上昇が見られます。
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貿易交渉: 米国とメキシコの鉄鋼関税交渉が進展し、クロスボーダー取引の拡大が期待されています。
この強含みは、メキシコ経済の短期的な魅力を高めていますが、長期的な持続可能性には注意が必要です。
5. 財政状況と公共債務
BBVA Researchの報告によると、公共部門借入要件(PSBR)は2025年末にGDP比53.1%に達すると予想されています。これは2024年の51.4%から増加しており、財政赤字の拡大が経済成長に圧力をかける可能性があります。この財政状況は、投資家の信頼に影響を与え、長期金利の漸進的な低下を促す要因となっています。

公共部門借入要件とは、政府が税金や他の収入で賄えない部分を借り入れる金額のことです。
例えば、政府の総支出が100兆円で、税金などの収入が90兆円の場合、10兆円を借り入れる必要があります。この10兆円が公共部門借入要件となります。
6. 政治的安定と株式市場
クラウディア・シェンバウム大統領の下、メキシコの政治的安定が投資家の楽観を支えています。特に、米国との関税問題(鉄鋼関税)を巡る交渉が進展し、投資家の信頼が高まっています。
これにより、メキシコの株式市場(S&P/BMV IPC)は2025年6月5日に57,797.68で取引され、日足で0.51%上昇しました(Mexico’s Stock Market Holds Ground as Technicals Signal …)。この動きは、メキシコ経済の短期的なポジティブな見方を反映しています。
7. 総合評価と展望
2025年6月のメキシコ経済は、GDPのマイナス成長と消費・投資の低迷という課題に直面しています。一方、メキシコペソの強含みと株式市場の好調は、国内のマクロ経済改善と外部要因(米国の金融政策、貿易交渉)の支援を受けています。
インフレは目標をやや上回るものの、Banxicoの金融緩和が経済を支える見込みです。ただし、財政赤字の拡大は長期的なリスク要因として注意が必要です。2026年以降の経済回復に期待が集まる中、インフレと財政の動向が今後の鍵を握ると考えられます。
参考文献